もくじ
ふと本棚を見ると
〈手塚治虫〉先生の短編漫画が数あることに気がつきました。
例えば、『空気の底』『時計仕掛けのりんご』『ザ・クレーター』など。
1つの話は20~50ページほどで、5~10分で読めてしまいます。
長編は長編でおもしろいですが、短編はサクッと楽しめるのがとても心地よくあります。
全く知らない状態から読むとすこぶる面白い。
気がつくとニヤッと微笑んでいます。
『空気の底(秋田文庫)』
短編16話、全部で336ページ。そのほとんどがバッドエンド。
悲劇的なストーリーがほとんどで、読み終えた後に何とも言えない気持ちになり「フー」と一息をつきたくなります。
この中で僕が1番好きな話は〈聖女懐妊〉
宇宙の彼方で1人、任務をこなす男とその孤独を埋めるために共に暮らしている女性のロボット。
その女性のロボットが妊娠するというストーリー。
何とも不思議で神秘的な存在を目の当たりにしたような尊い気持ちにさせてくれます。
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『時計仕掛けのりんご(秋田文庫)』
短編5話、全部で200ページ。リアリティ強めの映画になりそうなストーリー。
手塚治虫が実際に誰かに聞いたか史書を読んだかして、それを漫画にしたような印象を受けました。
中でも、事実を元にした〈ペーター・キュルテンの記録〉は衝撃作です。
シリアルキラーと呼ばれる、異常な心理的欲求を満たそうとして殺人を繰り返す殺人鬼のストーリーです。快楽殺人や猟奇殺人などですね。
「手塚治虫先生はこんなダークな作品も描いていたのか」という驚きもありました。
心の闇の部分が描かれた短編と言えるのかもしれません。
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『手塚治虫短編集(講談社漫画文庫)』
全2冊。短編集1は短編10話、全部で384ページ。短編集2は短編5話、全部で328ページ。SF要素のあるストーリー。
僕が好きなのは短編集1収録の〈ザムザ復活〉と短編集2収録の〈こじき姫 ルンペネラ〉です。
ザムザと言えば、カフカの『変身』のあのザムザを思い浮かべる方が多いと思いますが、手塚先生も意図的にザムザという名前をつけたと思います。
——20XX年。アフリカの自然保護区域に生息する動物たちはどれも元は人間だという世界観のストーリー。
世界の人口が増えすぎたせいで動物は激減していました。
犯罪者などの人間失格者は、〈改造センター〉で大脳を削りとられ、体格に合わせて動物の姿に改造されてしまっていたのだった。
しかし、動物たちの中には人間らしさを取り戻す者もいて……。
〈こじき姫 ルンペネラ〉はちょっとエッチなアラビアンナイト風なストーリー。
ランプを持った可愛い女の子としがない予備校生とのドタバタ・コメディーです。
少し下品な気はするけど、どこか昔懐かしい昭和の雰囲気を楽しむにはちょうどいい作品です。
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『ザ・クレーター(秋田文庫)』
全2冊。1巻は短編10話、全部で320ページ。2巻は短編9話、全部で296ページ。心に関する奇妙でミステリアスなストーリー。
「〈世にも奇妙な物語〉と似ている」と言えば、内容が分かりやすいと思います。
非現実的な現象でありながら、登場人物たちの心は人間の隠れた側面を映し出したかのように現実的です。
願望、欲望、愛情、不安、希望、絶望。
思いの強さが登場人物たちに不思議な現象を起こさせます。
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『ダスト8(秋田文庫)』
短編8話、全部で352ページ。命の大事さを問うオムニバス。
大型旅客機が山岳に衝突事故を起こし、乗客全員が死亡した……はずだった。
その山は生命の山といい、その岩のかけら(=石)には命のエネルギーが宿っていた。それが旅客機の接触によって偶然、乘客10名の上に落ちてしまったのだ。
その石のエネルギーによって生かされた体はその石のを手放すと死んでしまう。
謎の黒い存在からその話を聞かされた生き残った2人の男女は、残った8名の石を取り上げるように指図される。
しかし、2人は「人殺しのような真似ができるか」と石を手放してしまう。
謎の黒い存在は、〈キキモラ〉と呼ばれる使いに男女の体に乗り移らせ、8人の生き残った乘客から石を取り上げに人間世界へ行けと命じるのだった……。
内容は石を取り戻すキキモラと石を奪われまいとする人間と一貫してます。
なので、これを短編に部類するのは賛否両論あるかもしれませんが、8人の登場人物の人生観によって独立したストーリーとなっているので、僕は短編として見ています。
登場人物たちが命が残りわずかだと悟って何を思い、何をするのか、それがとても興味深い作品です。
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読み方
短編は短いストーリーの中にぎゅーっと詰まった濃厚なテーマが垣間見れる所がいい所ですね。
僕は何度も何度も読み返してしまいます。そして、読んだ後もその強烈な余韻に浸るのです。
何が起こるか分からない。ハッピーエンドとは限らない。どんな運命が待ち受けているのか予測できない面白さ。それが短編の醍醐味だと思います。
たまには短編もいいものですよ。