——これは、僕と同僚Aさんとのたわいもない会話です。
あわわなK君
同僚A「よーいちさん、ちょっと聞いてもらいたい話があるんですけど……」
僕「どうしたんですか? 何かありました?」
同僚A「あの……K君のことなんです」
僕「ああ、先月から異動してきたK君がどうかしたんですか?」
同僚A「K君ってずっとあんな感じなんですかねぇ?」
僕「そうですね。昔から何も変わってないと言えば変わらないですねぇ、K君は」
同僚A「言われたことには”はい! 分かりました!”って威勢よく言うわりに全然分かってなくて、”コレはこういうふうにしてって言ったよね?”って何回も同じことを説明しなきゃいけなくなるんですよ」
僕「なんというか、K君らしいエピソードです」w
同僚A「仕事なので本当に困るんですよ。この前なんか、”頼んでた書類できてる?”って聞いたら”あ、いえ、あ、あわわー”ってあたふたし始めるんです」
僕「あわわーってなるんですか?」
同僚A「そうなんです。私は普通に聞いてるだけなんですけど、なんでそんなにあたふたするの?って思って」
僕「Aさんが怖いんじゃないですか?」
同僚A「私、”できてなかったら承知しないわよ!”みたいな威圧的な言い方してませんよ」w
僕「まあ、K君の受け取り方もあるとは思います。でも、K君からしてみれば、”怒られる!!”って反射的に構えてしまうんじゃないでしょうか」
同僚A「でも、つい最近、とうとうやりましたよ」
僕「え? 何をですか?」
とうとう……
同僚A「嘘をつくんです」
僕「なぁんだ。びっくりしたぁ。大事件でもやらかしたのかと思いましたよ」
同僚A「嘘をつくのも大事件と同じくらいのことですよ」
僕「そうなんですね。で、どんな嘘をついたんですか?」
同僚A「さっきの話の続きになるんですけど、K君に”頼んでた書類できてる?”って聞いたらあたふたし始めてなかなか言葉が出てこないもんだから私、もうイライラしてしまって”できてるの? できてないの? どっち?”って言ったんです」
僕「うんうん」
同僚A「そうしたら、K君が”で、できてます!”って言うから”できてたんならここに持ってきてよ”って言ったら、今度は”できてません!”って言うんです。それで私、”え!? どっちなの?”って言うじゃないですか。で、結局できてなくて、私が頼んだ仕事を忘れてたことが発覚するんです。どう思います?」
僕「……うーん。いやぁ、なんとも言えないですね」
同僚A「”プライベートならまだしも仕事で嘘はやめて!”ってマジで言いたくなりましたよ」
僕「あ、言い留めたんですね?」
同僚A「(喉元に手をやって)ここまで出かかってましたけどね」w
僕「そうですね……。嘘をつくのは、叱られたくない・責められたくないという思いから自分のプライドを守るためにからつい嘘を言ってしまうことがあるようですね」
同僚A「K君にプライドなんてあるんですかね。まあ、誰かのせいにしないだけマシですけど」
僕「そこは認めてあげてるんですね」
同僚A「そりゃそうですよ。じゃないと、私、あの子と仕事するの本当に嫌ですよ」
僕「K君には難しいことは頼めないけど単純作業は文句一つ言わずにやってくれますよね」
同僚A「うーん。……他にも言っていいですか?」
僕「どうぞ、どうぞ」
言われたことができないK君
同僚A「3ヶ月くらい前なんですけど、社内アンケートのデータを集めてたじゃないですか」
僕「はいはい。データを集計するために3ヶ月前からどの部署も必死になって集めましたよね。あれは大変でした」
同僚A「でしょ? 今までは、配った後に各自で持ってきてもらってたけど、全然回収率が上がらないから直接書いてもらいに行くことになったじゃないですか」
僕「ええ、そうですよ。それがどうかしたんですか?」
同僚A「K君も同じことを言われてたのに、今までと同じように配るだけ配って2週間も放置してたんです」
僕「え? そんなことしたら怒られるでしょ」
同僚A「そうですよ。前の部署の上司はZさんだから、もうカンカンになって”なんでこんなことになるの! 私、あの時、”直接書いてもらいに行って”って説明したよね?”って怒りまくってたらしいです」
僕「は〜、なんか想像できそうです」w
同僚A「それでも怒りが治らなかったのか、(Aさんの直属の上司)Tさんにもイライラの火の粉が飛ぶハメになったみたいですよ」
僕「それ、とばっちりですね」
同僚A「TさんはなぜかZさんに謝ってたらしいですけど」
僕「ああ、それはK君が新人の時に教育指導したのがTさんだからですよ、きっと」
同僚A「あー、そうなんですか。でも、もう何年も前のことでしょう。Tさんに怒るのはおかしいですよ」
僕「そうですね。まあ、それがZさんですから」
同僚A「まあ、今回の問題はZさんじゃなくてK君なのでいいですけど。とにかく、K君は何かと問題を起こすって話なんです」
僕「嘘をついたり、言われたことをしなかったり……」
同僚A「分かってないのに分かったふりをするから余計にややこしくなるんですよね。よーいちさんはどう思います?」
僕「そうですね……。言ったことができていないからと言って怒って叱るのは教育とはほど遠いと思います」
同僚A「だったら、どう説明したらいいんですか? 私だったら絶対に怒ってしまいそうで……」
僕「話を聞いていて、2つ課題があると思いました」
同僚A「2つですか……」
2つの課題
僕「まず1つは〈K君が努力していないこと〉。仕事を成し遂げようという気持ちと行動が足りていないことがK君の課題です」
同僚A「確かにないかも……なるほど。もう1つはなんですか?」
僕「もう1つは〈教える側がK君を無視して教育してしまっていること〉です」
同僚A「K君を無視して教育……? どういうことですか?」
僕「Zさんは〈自分が思う正しい教育〉を行なったのだと思います」
同僚A「それのどこがダメなんですか?」
僕「だって、そうは思いませんか? 1を知って10を学ぶ〈頭のいい人〉もいれば、10を知って1しか学べない〈おバカな人〉もいるんですよ。仮に、世界一の教育システムがあったとしても、両者が同じように理解できると思いますか?」
同僚A「それはやっぱり〈頭のいい人〉の方が理解が早いと思います」
僕「〈おバカな人〉は分からないままだったりしますよね。K君みたいに」
同僚A「教え方が同じでも理解する人とできない人ができてしまうんですね」
僕「それはなぜだか分かりますか?」
同僚A「うーん……やっぱりK君が原因なんですかね?」
僕「いいえ、K君だけが原因ではありません。教え方に原因があります」
同僚A「Zさんは間違ったことは言ってないと思いますよ。何がダメだったんです?」
僕「K君がどんな人か知っているのに、K君に合わせた教え方をしなかったから今回の失敗に至ったのです」
同僚A「だったら、どんなふうに教えればいいんですか?」
僕「K君の特徴を思い浮かべてみてください。単純作業はできるけど、変則的な作業は不得意。しかも、分かっていなくても”分からない”と言ってこない」
同僚A「最悪ですよね」w
僕「だからこそ1つ1つを丁寧に教える必要があるのですが、その都度何度も教える時間はありません」
同僚A「そりゃそうですよ。みんな、仕事で忙しいんですから」
僕「でも、また変則的な仕事をすることになった場合、また同じ失敗を繰り返してしまいます。なので、K君に考える機会を与えて、K君なりの答えを出させないといけません」
同僚A「なるほど。確かに誰かがK君に教える時、教える人だけがバーっと喋ってK君はじーっと黙って聞いてるんですね。で、ずっと黙ってるもんだから、教える人は熱くなっちゃって話が長くなって、最後にK君が”はい! 分かりました!”って言うパターンですね……」
僕「自分で考えて解決できなければ、本当に理解したことにはならないと思います」
同僚A「教える人が喋りすぎてK君が考える機会を奪ってたんですね……」
線引きをしておく
僕「もちろん、K君自身にやる気があっての話です。教えてもらう側と教える側がそれぞれの課題をクリアしないと解決しません」
同僚A「へぇ〜、そういう発想はなかったです。驚きました」
僕「教える側が”自分は正しい教え方をしている”と思っているとしたら、初対面の人に教えるのと同じです」
同僚A「それはどういう意味ですか?」
僕「例えば、新人・中堅・ベテランへの教え方が変わるのは当然ですよね。それに、人には性格や特徴もあるので、人に合わせて教え方を変えるのが真の教育だと思うのです」
同僚A「そうかもしれないですけど、そんな難しいこと、私にはできそうにありません。ただでさえ、仕事が山積みなのに……」
僕「K君の話を聞いてあげるだけでいいんですよ。教える側が一方的に喋るのではなくて、”K君はどう思う?”、”どうしたら解決できると思う?”って」
同僚A「それでも黙ったままだったらどうしたらいいですか?」
僕「何も感じない人はいないと思うのですが、それでも自分で考える姿勢が見られないのなら、やるべき仕事だけはやってもらって、K君に必要以上の期待しないのがいいと思います」
同僚A「それは、できそうにない仕事を与えないということですか?」
僕「そうです。仕事なので、ココはきっぱりと線引きしてもいいんじゃないでしょうか」
同僚A「でも、やってもらわなきゃいけない仕事もあるので、全部が全部そういうわけにもいかないんですよ」
僕「今はK君にやってもらうとしても、K君自身に改善が見られなくて失敗ばかりしていたら、Aさんだけじゃなく周りからも”K君には仕事を任せられないな”と思われていくだけです」
同僚A「そんなふうになっても、放っておいてもいいんですかね?」
僕「”どうしたらいいんだろう?”と考え悩んでる人に僕は教えます。そんな時、人は”学びたい”、”理解したい”と強く思っているものです」
同僚A「ああ、なるほど……。やる気のない人に教えても学びにならないんですね」
僕「分からないからといって手取り足取り教えていてはその人のためにならないですよね」
同僚A「本当にそうなんです。私、細かいところまで全部を教えることはできないなぁって思ってしんどくなってたんです」
教育とは子育てと同じ
僕「よく母親が自分の子供に”なんで言ったことができないの!”って叱ってることがありますが、これと同じですよね。相手の失敗を責めた後に、一方的な意見を押し付けてるだけなんです」
同僚A「私の母もそんな感じでした。全然、言い訳を聞いてくれなくて、だから、叱られてる時間がすっごく嫌でした」
僕「嘘をついたり、言うことを聞かないのって、一種の成長だと思うんです」
同僚A「え? それが成長ですか?」
僕「はい。嘘をつくのは自分の意思を貫きたいからするんです。言うことを聞かないのも、自分の考えがあるからそれに従ってるだけなんです」
同僚A「言われてみれば、そうかも……。私も母に反抗したくて言うこと聞かなかったりしてました」w
僕「誰だって、”ああしろ、こうしろ”って頭ごなしに言われたらいい気分はしませんよね。”そんなに間違ったことしたのかよ”って反抗したくなると思います」
同僚A「”私の話も聞いてよ!”っていつも思ってました」
僕「考え方が違うのは人間なんだから当たり前ですよね。得意・不得意もあって、理解の速さも違うのだから、それを認めてあげないと子供だって言うことを聞きませんよね」
同僚A「ああ! すごくわかります。人格を全否定されてから教えてもらっても頭に入らないですよね」
僕「まず何より相手を認めてあげて、”今日の出来事に対して、僕はこんなふうにしたらいいと思うんだけど、あなたはどう思う?”と考えさせて、自分の答えを見つける機会を作ることが大切だと思うんです」
同僚A「それなら私も納得です。よーいちさんがお父さんだったらよかったです」w
僕「ははは」
ゆっくり力を抜いて
同僚A「まあ、でも、教育って難しいですね」
僕「ええ、難しいですね。絶対に親の思い通りの大人にはならないのが子供だと思います。それと同じで、後輩も先輩にしても、自分の思い通りには動いてくれません」
同僚A「だからって、自分に都合のいい人ばかりと付き合ってるのもどうかと思いますし」
僕「人脈だけを頑丈にしてる人も確かにいます。誰もが歯向かってこさせないように立場を利用してるような人は、立場が変わった時、必ず反発に遭います」
同僚A「教育も、やり方を間違えると敵を増やすことになるんですね」
僕「だから、役職についた人は尚更、そのことを忘れてはいけないと思います」
同僚A「なるほど。勉強になりました」
僕「K君がやる気を出してくれるのが1番だと思いますが、ゆっくり力を抜いて、というのが僕のアドバイスです」
同僚A「はい、そうですね。ゆっくり教えてみます」
僕「それがいいです。〈できるか〉〈できないか〉じゃなくて、これからどうしていくかを考えさせてあげてください」
同僚A「全部言わないようにしてみます」
僕「どんどん考えさせて、認めてあげてください」
同僚A「考えすぎて、頭パンクしなかったらいいんですけど」w
僕「ははは。その辺は加減してあげてください」w
同僚A「ありがとうございます。すごく分かりやすかったです」
僕「それはよかったです」
同僚A「あ、話すだけ話して申し訳ないですが、そろそろ仕事に戻ります」
僕「あと少し、がんばりましょう」w
同僚A「はい、がんばります」w
⚠️これはフィクションです。実在の人物や物事は一切関係ありません。
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