まさに
望まれない子
戦後、大地主の一族に生まれた忌み子〈奇子〉。一族の罪が新たな罪を重ねる一方、〈奇子〉は美しく成長していく——。
僕が大好きな漫画 『奇子(あやこ)』を簡単3分でご紹介します。
結論
この本が教えてくれるのは、人間の浅ましさです。
感想
悪書
手塚治虫作品の中で、悪書と言っても差し支えないと思える作品があります。
それが『奇子(あやこ)』です。
『鉄腕アトム』が陽ならば、『ブラックジャック』は陰です。
『火の鳥』が聖書ならば、『奇子』は悪書です。
あく-しょ【悪書】1 内容が俗悪で、読者や社会、特に青少年読者に悪影響を及ぼす本。 2 文字を書くのがへたなこと。悪筆。
引用:コトバンクより
もしあなたが18歳未満なら今は読む時ではありません。
例え18歳以上だとしても、生半可な好奇心で読まないでください。
ここで描かれているのは〈人間悪〉です。
醜く穢れた汚物にも劣る畜生です。
それでも読んでみたいと思った人はお読みください。
しかし、「読まなければよかった」と後悔しても自己責任としてください。
簡単あらすじ
戦後——昭和24年(1949年)、横浜港には兵役を解かれた人とそれを出迎える人で混み合っていました。
「仁郎にいさん!! あたし 志子よ!!」
「ナッちゃんか!!」
「元気そうでほんとうに……よかった!!」
〈仁郎〉と〈志子〉は再会を喜び、母〈ゐば〉もやって来ます。
仁郎は他の家族は元気でいるかと尋ねると、〈志子〉は少し話した後、少し表情を曇らせて言いました。
「それからね。その下の奇子は知らないでしょ。兄さんは……」
「知らんな。行ってる間にできたんだな? 母さんもタフだね」
〈ゐば〉は下を向いて口を閉ざしています。
〈仁郎〉は何かただならぬ空気を感じて志子に問い出します。「誰に産ませたんだ!?」
「……後で話すわ……」そう志子は答え、3人は家に戻りました。
——〈仁郎〉が帰宅すると、使用人たちが出迎えてくれます。
父〈作右衛門〉に挨拶をしに行くと、部屋の戸の前に小さな女の子がこちらを見ていました。
この子が〈奇子〉でした。首筋にほくろがある、おかっぱ頭の可愛い女の子です。
「誰の子なんだ。母さん!?」そう仁郎が言うと、作右衛門は「うるせえ!!」と怒鳴ります。
次に仁郎は兄の〈市朗〉の部屋に行くと、妻の〈すえ〉も一緒に座っていました。
そこで目を疑います。
〈すえ〉の首筋にも〈奇子〉と同じほくろがあったのです……。
天外という家
天外(てんげ)家は村の大地主の一族でした。
戦争が終結すると、土地は国が無条件に没収していきましたが、それでも天外家の財産は相当なものです。
所有地の田畑を管理し、小作人を雇い、近隣の親族らを従える威厳を持っています。
長男〈市朗〉はその財産を相続するため、父〈作右衛門〉の要求されるがままに自分の妻〈すえ〉差し出してしまいます。
その末に生まれたのが〈奇子〉です。
〈作右衛門〉は〈奇子〉をたいへん可愛がり、〈市朗〉は〈奇子〉を毛嫌います。
戸籍上、〈奇子〉は〈作右衛門〉と〈ゐば〉との娘となっていた為、〈奇子〉にとって〈すえ〉は義理の姉。〈奇子〉は〈すえ〉を「お姉ちゃん」と呼び、〈すえ〉が己が子を抱くことを許されませんでした。
次男〈仁朗〉はそんな父と長男を非難しますが、ある事件を起こして天外家から離れてしまいます。
長女〈志子〉は、天外家の土地を奪った民進党の一員だったことが分かり、〈作右衛門〉から勘当されてしまいます。
三男〈伺朗〉は天外家の中で1番正義感が強い少年でしたが、結局は罪を犯してしまいます。
——まとめると、天外家の人々は皆、自己の保身に生きる人々なのです。
誰が1番悪いのか
罪深き人物は以下の通りです。
(1)天外家の主〈作右衛門〉
(2)作右衛門の妻〈ゐば〉
(3)天外家の長男〈市朗〉
(4)市郎の妻〈すえ〉
(5)天外家の次男〈仁郎〉
(6)天外家の長女〈志子〉
(7)天外家の三男〈伺朗〉
(8)そして〈奇子〉
己の欲望のままに息子の妻を犯すという〈作右衛門〉の罪は、倫理を大きく外れた行為と言えます。
そして、〈作右衛門〉の要求を呑んだ息子〈市朗〉と〈すえ〉は保身のためとは言え、自分勝手すぎます。
長女〈志子〉は天外家の家系に諦めを感じているのか、父と義姉との関係にあまり関心がないようです。〈奇子〉のことは不憫に思っているようですが、直接何かをするということはありませんでした。
〈ゐば〉は面倒事には口を挟まずという感じで、もはや傍観者です。
〈奇子〉自身はと言うと、〈作右衛門〉に似たのか、色欲に溺れ、恣意的で後先を全く考えていません。
それを言うと〈伺朗〉も同罪です。
「自分こそはまともだ」と正義感ぶっていますが、その行いはどれも自分本位で〈奇子〉のことを思っての行動とは思えません。
起きてしまった過去を悔やんでも仕方がありませんが、だとしたら、どうすればハッピーエンドになったのでしょうか。
〈奇子〉の幸せについて考えさせられます。
読み方
悪書と言うくらいですから、胸を張ってオススメとは言い難い作品です。
戦後、ある大地主の一族に起きた悲劇——なぜか読みたくなってしまう……背徳な甘美に酔いしれてみたい。魅力がないと言えば嘘になります。
しかし、〈奇子〉の視点で周りを見渡せば、全く違った景色が広がっているのかもしれません。
〈奇子〉は強い女です。
最後に
手塚治虫漫画全集、文庫本があります。
ぜひ探してみてください。
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