まさに
サイコパスの冒険
——冷凍睡眠によって20年間眠らされた一家の記録。その長男・一郎は副作用によって〈良心〉を失い、殺人をいとも思わぬ人格に変貌していた……。
狂っているのは人か社会か。それとも両方か。——僕なら「どっちでもいいからとにかく全力で生きろ!」とエールを送ります。
結論
この本が教えてくれるのは、人間らしさとは何かです。
感想
『ガラスの城の記録』との出会い
「もっと手塚治虫先生の作品が読みたい!」
『ブラックジャック』『火の鳥』を読んだ後も、僕の中でその気持ちがおさまることはありませんでした。
文庫本コーナーの中で一際妖しく映った作品——それが『ガラスの城の記録』です。
巻数の表示がないので、1冊のみの作品のようです。
ゾクっとして、見てはいけない物を見るような背徳感を感じました。
大きな声では言えませんが、僕はこの作品が手塚治虫作品の中で1番大好きなんです。
簡単あらすじ
〈ガラス屋敷〉と呼ばれる札貫家には、気味の悪い噂があった。
屋敷の主人・札貫礼蔵は、ほとんど人前に姿を現すことがなく、1年に1回ぐらいしか見かけることがなかった。
それには秘密があった。
——〈冷凍睡眠〉です。
札貫礼蔵は20年前、家族を無理矢理〈冷凍睡眠〉に入れ、その管理を息子・四郎に押し付けた。
そして礼蔵本人は1年に1回起きていたのだ。
しかし20年経ち、四郎は42歳になり、〈冷凍睡眠〉の管理する人生に疲れ切っていた。
礼蔵は〈冷凍睡眠〉の副作用のせいで、頭がボケてしまって、出来ることといえば、四郎の娘・マリの尻を追いかけることだけだった。
四郎の妹、マリからすれば叔母は未だ18歳のままで、むしろその後に入った娘が20歳で、娘の方が年上になっていた。
四郎は過去に冷凍睡眠の事故で妻を失っていた。
「兄貴を起こしてこの役回りを交代してもらおう」と、四郎は兄・一郎を起こすことにする。
しかし、それが本当の悪夢の始まりだった——。
冷凍睡眠から目覚めた一郎には決定的な欠陥があった。
良心が失われていたのだ。
冷酷な人格となった一郎は姪にあたる・マリを犯し、弟の五郎を躊躇なく殺害してしまう。
さらに、四郎から冷凍睡眠の管理を引き受けたフリをして、すぐさま父・礼蔵を殺害。
警察に追われる身となった一郎はマリを連れて逃亡した……。
一郎の境遇に共感
親の理不尽な言いつけ、科学・医療の発展によって運命を狂わされた札貫家。
一郎は〈冷凍睡眠〉の副作用にせいで、良心を失ってしまい、簡単に犯罪を犯してしまいます。
「結局、長生きして何か得られたのか?」
そんな疑問が浮かんできますが、警察に追われる身となった一郎には、もう破滅の道しか残されていません。
しかし、一郎は自分の運命に諦めずにあらがい、戦おうとします。
一郎の心情を代弁すると「ふざけるなよ! こんなふざけた運命だが、何がなんでも生きて幸せになってやる!」といった感じです。
人を殺すことを何とも思わない一郎ですが内心は純粋に見え、僕はスゴく共感してしまいました。
2000年前の女
一郎は逃亡先で、2000年前から眠っていた女・ヒルンと出会います。
一郎でさえヒルンの非道な行為に圧倒されます。
ヒルンは一郎に強い求愛行動を示し、一郎に近づく者には敵意をむき出しに襲いかかるのです。世間の常識など全く通用しませんでした。
ヒルンはただ、一郎とのセックスすることを第一に考え、それを邪魔する者を排除しようとしているようでした。
1つ言えることは、ヒルンもまた良心を失いつつも純粋な人間なです。
狂った世界・狂った人間
〈冷凍睡眠〉〈近親相姦〉〈殺人〉
犯罪の匂いがプンプンと漂ったクセの強い作品です。
断言しますが、この作品の登場人物全員が狂っています。まともな人間は1人もいません。少なくとも僕にはそう見えました。
しかし、何を持って〈まとも〉〈正常〉と言うのか。
狂った世界だろうが何だろうが、生きたいという気持ちは純粋です。
ちゃちな善悪を超えて、原始的な情動・欲望を呼び起こさせてくれる作品でした。少々、過激かもしれませんが。
読み方
映画化するとなれば、確実にR 15指定作品でしょう。
残酷なグロテスクなシーンは無いですが、事実だけを並べてみれば、犯罪に犯罪を重ねるストーリー。捕まれば即極刑に間違いありません。
結末が気になるところですが、この『ガラスの城の記録』は〈未完結〉で、1巻のみ(200ページほど)です。
未完結の作品ほどそれに影響された作家がその続きを書いたなんて作品が数々ありますが、僕はこの作品が好きな人と〈私が思うエンディング〉を語り合いたいですね。
コメント待ってます。
最後に
手塚治虫漫画全集、文庫本があります。
ぜひ探してみてください。
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