まさに
儚い恋
病気の母を持つ青年〈千太〉。 仕事がないからお金がない。ある日、侍の財布に手をつけて殺されそうになって——。
僕は【まんがで読破】の大ファンで、全139冊読んでいます。
今回はその中から『「いき」の構造』を簡単5分でご紹介します。
結論
この本が教えてくれるのは、日本人の美意識です。
感想
『「いき」の構造』との出会い
時代劇で「いきだねぇ!」と言っているのをよく耳にしました。
その言葉が出ると、皆自然と笑顔になります。
センスがいいとかイケてるとはまた違った、日本独特のポジティブな言葉です。
簡単あらすじ
時はさかのぼること江戸時代
戦国の世も終わり、天下泰平の世をむかえたのであります。
なかでも、やはり将軍のお膝元、江戸は活気にあふれておりました。
「わあああっ」とどよめく声の中、2人の若い男の喧嘩が始まりました。
初老の男はそれを見て「また松島のとこの若い衆か。まっ昼間からけんかたぁ、ずいぶんといきじゃねえか!!」と笑いました。
火事とけんかは江戸の華
江戸は庶民にとってさまざまな「いき」が花ひらいておりました
さて、この「いき」
外国にはみられない日本特有の感覚と言われますが、具体的にどのようなものなのか——
九鬼修造がまとめた言葉があります
「いき」とは運命によって「諦め」を得た「媚態」が「意気地」の自由に生きるのである——と
貧乏
〈千太〉には病気の母がいました。
しかし、薬を買うお金も仕事もありません。なので、スリ(=盗み)をして生活をしていました。
ある日、千太がいつものように江戸の往来でスリをしていると、相手の男性にバレて捕まってしまいました。
男性は3人組で、「奉行所(=行政・司法・警察の役所)へ突き出さねえと気が済まねえ!!」と憤っています。
「奉行所だけは勘弁してくれ!!」と謝罪する〈千太〉を、親方と呼ばれる男性はあっさりと許して去ってしまいました。
家に戻った千太は、咳き込む母に薬を出そうと引き出しを開けます。
すると、最後の1つしか残っておらず、千太は愕然として再び町へおもむきました。
「薬がないとおっかあが死んでしまう」と、とぼとぼ歩いていると、店の外の椅子に財布が置いてあるのが千太の目に入ります。
千太は思わず財布に手を伸ばしますが、侍につかまってしまいます。町中の人々が見守る中で千太はボコボコに殴られ、侍が「切り捨て御免」と刀を振り上げたその瞬間——「まちやがれ!!」
先程の”親方”と呼ばれる男性が止めに入り、おかげで事無きを得ることができました。
心配する周囲の人たちを前に千太は「スリは母を守るために仕方なかったこと」と吐き捨てますが、親方はゲンコツを喰らわして説教をします。「どんな理由があったってスリはスリだ!! 屁理屈ならべてんじゃねえ!!」そして、そんなどうしようもない千太を「俺が一から叩き直してやる!!」と自分の所で働くように言いつけたのです。
切捨御免……江戸時代、武士の有した身分的特権の一つ。無礼におよんだ庶民を切害すること、すなわち無礼討の許容である。
コトバンクより引用
媚態
1年後、千太は大工職人の見習いとして働いていました。
まだまだ仕事は半人前ですが頑張っているようです。
仲間内の話では、親方の建物は”いき”だそうで、渋みと趣が絶妙だと言います。
大口の仕事が決まり、その前祝いをすることになったので、千太は先輩職人に湯屋(=風呂屋)に連れて行かれました。
風呂から出ると、先輩は湯上がり姿の女性に興奮しています。
千太は「女の裸が見たいなら女湯でものぞきゃいいさ」とため息をつきますが、先輩から言わせば「わかってねえな」とのこと。男女がお互いを意識しムラムラしてる様を媚態といい、女性の裸体を妄想することが”媚態”の醍醐味であると言います。
その夜、宴会は盛大に行われました。
先輩は「これから一緒にいい所に行かねえか?」と言うのでついていくと、そこは吉原遊廓でした。戸惑いを隠せない千太でしたが先輩の計らいで中に入ることになり、ある一室に通されます。
部屋に入ってきた女郎は〈柊〉という名の、目尻にホクロがある綺麗で愛嬌のある人でした。実はこの女郎、昔、同じ長屋(=集合住宅)に住んでいた頃に仲が良かった〈お雪〉だったのです。
千太とお雪は10年ぶりの再会を祝ってお酒をかわしました。
しかし、この出会いが千太の儚い恋の始まりなのでした……。
女郎……売春婦の古称の一つ。もとは女子の俗称であったが、江戸時代に遊女の別称となった。
コトバンクより引用
考察:”いき”は称賛の最上級
僕の独自の見解は以下の通りです。
「人生は思い通りにいかないが、自分の信念を貫こうとする姿を称賛しようではないか」
論理的に言うと、こんな感じです。
Aの想いは叶わない。
しかし、Bの配慮によって称えられたAの想いは誇り高い精神に昇華する。
Aの想いを称えるB。
Bは「A! あんたの想いは痛いほどわかった! たとえ成就しなくてもあんたの意気込みは立派だよ!」と、こんなふうに相手を称え励ましてているイメージです。
Aは、そんな肯定的な言葉をもらって誇らしいはずです。
今よりも決して裕福ではなかった江戸時代に庶民たちは自分たちの境遇にめげることなく、たくましく生きていたんだろうなと想像しました。
そして、この相互関係に名称をつけることで、そのことについて深く考えたり、煙のようにすぐに消えてしまいそうな儚い物事の存在を可視化できるようにした日本人の感性をなんて素晴らしいのだろうと思いました。
もしも、”いき”という言葉がなかったら、悲しいだけの”儚さ”や雅やかな”風流”という文化しか育たなかったのかもしれません。
読み方
千太の物語を中心に、”いき”の論理の要素である〈媚態〉〈意気地〉〈諦め〉の説明がなされています。
辛いのは〈千太〉だけではなく、周りの人もさまざまな事情を抱えてても尚、理想と現実の間で気高く生きようとしています。
そんなままならない人生に花を添える”いき”に触れたことで、言葉にならない想いが報われた気がしました。
そしてもう1つ嬉しかったのは、時代劇を観る楽しみが増えたことです。
最後に
まずは漫画で読むことをオススメしていますが、書籍で読むのもいいと思います。
書籍は、図書館や中古本など、たくさんあると思います。
ぜひ探してみてください。
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