まさに
900年前の説話集
男女の秘め事、情のもつれ、妖霊の類い、不可思議な出来事。 己の心に素直に生きる平安時代の人々の、怖くて楽しい泣ける喜劇——。
今回は【マンガ日本の古典】から『今昔物語』を簡単5分でご紹介します。
結論
この本が教えてくれるのは、人間の性(さが)です。
感想
『今昔物語』との出会い
水木しげる先生の作品が大好きで、読んでみようと思いました。
表紙には平安時代の人の帽子——冠や烏帽子をかぶった人が描かれています。
簡単あらすじ
この作品の中で、特に面白かった[霊鬼]をご紹介します。
文徳天皇の妻〈染殿の后〉は”物の怪”に苦しめられており、今日も宮中に加持の僧が呼ばれていた。
か-じ【加持】
1.仏の加護。
2.密教で、仏の慈悲の力が衆生に加わり、衆生がそれを信心によって授持し、ほおけと衆生とが相応すること。
3.真言行者が、手に韻を結び、口に真言を唱え、心を仏の境地におき、仏と一体となること。三密加持。
4.神仏の加護を受けて、災いをはらうこと。祈祷と同意に用いる。
goo辞書から引用
しかし、その効果は見られず、文徳天皇と后の父〈藤原良房大臣〉が頭を痛めていた。
そこで、大和の葛木山の頂上の金剛山に住む聖人を呼び寄せて祈祷をさせてみようということになった。
——翌日、その聖人が宮中にやってきた。
〈染殿の后〉は几帳の垂れ布の中。祈祷が始まると侍女の1人が苦しみ出した。
当時は寄坐(よりまし)に物の怪を憑依させた上でこれを払うことが行われた。この場合は后の侍女が寄坐の役目を果たしている。
本書より引用
途端に侍女の体から老いた狐が飛び出たかと思うと、聖人は手早く縄で捕らえ、これを退治した。
聖人の見事な活躍に、大臣は労をねぎらい、しばらくここにとどまるよう申しつけた。
后の容体はケロリとよくなっていた。
2、3日して后の様子を伺いに来た聖人。そのとき、折しも一陣の風が几帳の垂れ布をひるがえし、中にいた后の顔がチラリと見えた。
「な、なんと美しい方であろう」
聖人は后に深い愛欲の情を禁じ得なくなってしまった。
どうしても后を忘れることができない。かくなる上は忍び混んでこの思いを遂げよう、ということで夜這いをかけたが、侍医の〈当麻鴨継〉がすぐに駆けつけ、取り押さえられた。
このことは天皇に報告されて、聖人は牢獄に入れられてしまったが……。
聖人の蛮行
聖人は牢獄の中で「死んで鬼となって后と情を通じてやるぞ」と意気込んでいた。
それを聞いた牢役人はすぐにこのことを大臣に報告した。
大臣はそれならばと、聖人を元住んでいた山に帰すよう申し渡し、聖人は自分の庵に戻ってきた。
が、聖人は改心するどころか、后への思いを燃え上がらす一方。聖人は別の修行に励み始めていた。
食を絶つこと10日あまり——聖人はついに餓死に至り、その身は鬼と化した。
鬼と化した聖人は宮中に押し入り、后のいる部屋へ踏み入った。
侍女たちは慌て逃げ出した。后は聖人の神通力で魂を奪われて、逃げるどころか「ほほほほ」と微笑んで、聖人の情を受け入れた。
ことが終わると聖人は去っていった。
悪夢
「后はこれからどうなってしまうのだろう」
気を病んだ天皇は、前に聖人を取り押さえた〈鴨継〉に退治させることを考えた。が、しかし、鴨継は高熱にうなされ、「鬼の祟りだ」とうわごとを言いながら死んでしまった。
天皇は都中の僧を集めて祈祷して鬼を降伏させるよう大臣に命じた。
さっそく、たくさんの高僧が呼ばれて連日大がかりな祈祷が行われた。
——それから3月ほど経ったある日
鬼が現れることはなかったので、天皇は后の様子を見に行くことにした。
しかし、元気そうな后の顔を見て安心していたのも束の間、突然、また鬼が現れた。
鬼を見た后は魂を奪われて「お会いしとうございました」と鬼の胸の中へと歩み寄った。鬼は后の衣服を脱がし、天皇に見せつけるかのように交わる。
悪夢の再来である。
嘲笑う2人の声が夜の内裏に響いていた……。
修行を積んだ聖人であればこそ、転じて霊鬼となり人の心を惑わすこともできたのだろう。
まさに呪術は魔力なり……。
とはいえ、なんという執念であったろう。
后はこれでまたもや物の怪憑きに逆戻り……。
人間の性(さが)
聖人が初めて后を見た後の様子を物語る一文が胸を打ちました。
いかに修行を積んだ聖人とはいえ1人の男、いや、加持の疲れで魔が入ったというのか、ともかくもこのとき以来、聖人は后に深い愛欲の情を禁じ得なくなってしまった。
聖人は今の地位とこれまでの修行に費やしてきた人生をも捨て、それでも后を手に入れたいと思わせるほど、その美しさに心を奪われてしまったんだなと、その熱い心情を感じ取りました。自分の命も捨てて鬼と化す執念にグッときました。(男の性欲を言及するつもりはありません)
やりたいことをやる——これこそが人間の本来の姿なのかもしれないと思いました。
目次(収録作品)
【マンガ日本の古典】の『今昔物語』は上下巻(2冊)です。
上巻には11話、下巻には12話が収録されています。
上巻
●入れ替わった魂
●産女
●妻の恨み
●色事師平中
●霊鬼
●大江山の悪夢
●老医師の恋
●かぶら男
●赤鼻の僧
●酒泉郷
●堂の主
下巻
●ねずみ大夫
●安倍晴明
●稲荷詣で
●幻術
●妻への土産物
●水の精
●墓穴
●引出物
●外術使い
●寸白男
●生き霊
●蛇淫
エッチな話にゾッとする話、笑い話に失敗談。ジャンルもさまざま、今も昔も人の心に通底している話ばかりです。
読み方
「水木しげる先生のオリジナル作品なのかな?」と思えるほど、作品と絵がマッチしています。
『今昔物語』は人間の欲を描いたような側面もあり、クスッと笑ってしまう場面も多くありました。
1番の魅力は、平安時代の時間と空間の感覚が今とは違っていることです。
時計がないから昼は活動し夜は寝るしかなく、誰もせかせかとしていないのは妙な心地さを感じました。
みんな生き生きとしていて楽しそうで、何度も羨ましいなぁと思ってしまいました。
最後に
まずは漫画で読むことをオススメしていますが、書籍で読むのもいいと思います。
書籍は、図書館や中古本など、たくさんあると思います。
ぜひ探してみてください。
👇上巻『今昔物語』
👇下巻『今昔物語』