まさに
一途な女心
小火(ぼや)のようなくすぶりが一瞬にして業火のように燃え上がる! 「駆け落ち」「死刑」「自決」……いつの時代も男女の恋は命がけ——。
僕は【まんがで読破】の大ファンで、全139冊読んでいます。
今回はその中から『好色五人女』を簡単3分でご紹介します。
結論
この本が教えてくれるのは、越えてはならない一線です。
感想
『好色五人女』との出会い
井原西鶴の『好色一代男』を読みました。世之介の恋愛遍歴の話です。
この『好色五人女』はその後に書かれたものだとか。
今と昔の恋愛は違うのか、同じなのか——。
簡単あらすじ
この中で、特に印象が強かった[京・大経師暦屋おさん]をご紹介します。
大経師は宮中(朝廷)の経巻・仏画などを表装する経師屋の長。
作中より引用
〈おさん〉は夫〈以俊〉の妻として店を切り盛りしていたが、この度、〈以俊〉が江戸へ3ヶ月出張することになり、その間店のことを手代〈茂右衛門〉に任せることになった。
てだい【手代】 商家で、主人から委任された範囲内で、営業上の代理権を持つ使用人。
goo辞書より引用
茂右衛門は鈍感な性格ではあったが仕事はよくできる男だったので、〈以俊〉は安心して江戸に出立した。
ある日、腰元〈りん〉は茂右衛門にお灸を据えたことをきっかけに恋心を抱き始めた。
りんはおさんにその恋心を相談した。しかし、りんは読み書きができなかった。それならばと、おさんは恋文を代筆してやった。
——りんは茂右衛門からの返事の手紙をおさんの元に持ってきた。
思いもかけないりん殿の文
私も男
嫌でもないが 赤子でもできたら堕胎すには金も要る
それも承知の上でなら……
「なんやこれ! ばかにして!」おさんは怒りをあらわにした。
「ひどい……」りんも落ち込みを隠せない。「こんな男なとわかればもういい」と言うが、おさんの怒りはおさまらない。
おさんは、茂右衛門にその気にさせてから一杯食わせてやろうと、恋文を出し続けることに……。
不意の出来事
茂右衛門はりんの熱心な恋文を読むたびに恋心が大きくなっていった。
そんなある日、おさんは腰元たちにこう言いつけた。
今夜、茂右衛門にりんの寝床に来るように仕向け、おさんはりんの代わりに寝床に潜む。そして、いざ寝床に忍び込んできたらみんなで大騒ぎをして赤っ恥をかかせてやろう。そういう計画だった。
——夜になり、思った通り、茂右衛門はりんの部屋に入ってきた。
しかし、おさんは深く寝入ってしまっていた。
茂右衛門は相手がりんだと思い布団の中に忍び込んだが、あれよあれよと男女の関係を持ってしまった。
「あ……?」おさんが目が覚ますと、2人は自分たちがしたことにようやく気づいた。
「これは!」りんはその様子を見て驚いた。茂右衛門は慌てて逃げていった。
おさんは冷静だった。都合よく他の腰元たちが寝ていることをいいことに、りんにさっきのことは口止めをして、明日の晩、茂右衛門に私(おさん)の部屋に来るように言い、と、りんに言いつけた。
駆け落ち
明晩、おさんは茂右衛門に言った。
「冗談からの間違いと言うても世間には通らへん。このままやと2人とも磔や。茂右衛門、逃げよう!」
「おさん様! 私も死ぬのは嫌でござります!」
そう言って、2人は今宵も契りをかわした……。
翌日、おさんは伏見のお稲荷さんへお詣りに1人で行ってくると言って出かけた。
言うまでもなくそれは口実で、2人は店の金を持ち出し、死出の旅に出たのだ。
しかし、やっぱり死にたくはない。一生に一度の人生、楽しまなければ損だ、ということで、心中を装って駆け落ちをすることにした。
そのあと、2人は険しい道を歩き続け、やっとのことで辿り着いた海の見えるお堂で身を休めた。
再び京へ
月日は経ち——2人は田舎の村でひっそりと暮らしていた。
ある日、茂右衛門が京の様子を見てくると言う。世間が2人のことを忘れてくれたらこれから安心して暮らせるから、と。
おさんは反対したが茂右衛門は「見てくるだけ」と言って聞かなかった。
京に着くと、民衆の間で、おさんと茂右衛門の心中が狂言だと噂になっていた。
茂右衛門は気晴らしに見世物小屋へ入った。すると、中にはおさんの夫〈以俊〉がいた。
ゾッとした茂右衛門は慌てておさんの元に逃げ帰った。
「開けろ! おさん! 茂右衛門!」家の戸を叩く者がいる。どうやら跡をつけられてしまったようだ。
おさんは言い訳するでも抵抗するでもなく、潔く捕まった。茂右衛門も運命を受け入れた。
さまざまな取調べを行う中で、りんにも罪があるとして獄門となった……。
粟田口の露草とはなりぬ。
人生、何が起こるか分からない
おさんは元々、茂右衛門のことは何とも想っていませんでした。むしろ、格下の男と見下していたくらいでした。
しかし、たった一度関係を持つと情が移ってしまいます。
「そんな簡単に旦那裏切って他の男に惚れるか?」と思うかもしれませんが、おさんは最後まで心を揺らさず、逆に生き生きとしています。
「この人とは絶対ない」と思う相手とまさかの関係に……なんて、現代にもありふれていて、まったくの他人事とは思えませんでした。
何が起こるか分からないのが恋。だから脆く儚く、深く共感してしまう。
読み方
『五人女』とあるように、5つの物語が収録されています。
●其ノ一 姫路・但馬屋お夏
●其ノ二 江戸・八百屋お七
●其ノ三 京・大経師暦屋おさん
●其ノ四 大阪・樽屋おせん
●其ノ五 薩摩・琉球屋お万
[土地・家柄・名前]という並びになっていて、どんな女性なのかイメージしやすくなっています。
若さゆえの過ちなのか、意を決しての断行なのか。そんなことよりも、人の道に外れたことをしてはいけないと思うのか。
現代より処罰が厳しかった江戸時代だからこそ、気高く美しいひたむきな恋心を深く感じとることができます。
最後に
まずは漫画で読むことをオススメしていますが、書籍で読むのもいいと思います。
書籍は、図書館や中古本など、たくさんあると思います。
ぜひ探してみてください。