まさに
戦争絵日記
発表するあてもなく描いた『ラバウル戦記』。 戦後、復員した水木しげるが描いた戦場の日々は、後年、文章を添えて書籍化されました——。
■結論
この本が教えてくれるのは、人間の共和力です。
■あらすじ
この物語は、内地からニューブリテン島に出発するところから始まります。
船の中での様子が克明に語られています。
水木さんは本の中で、とりわけビンタを受けたと書かれています。
なにかの手違いでヘマをすると、すぐにビンタがビビビのビンとくる。
本書より引用
そして
「古兵殿、御注意ありがとうございます」そう思わなければいけないのだ。古兵の御命令は天皇陛下の御命令と同じなのだという、分かったような分からんような規則みたいなものがあるのだ。
本書より引用
ニューブリテン島に到着すると、古兵の命令に従って、本島まで歩かされた。30kgの背嚢(=背負う鞄)を背負っているので、バタバタと倒れる兵隊もいたようです。
住む環境も食べ物も不十分で、古兵からこき使われる生活でしたが、水木さんは楽天的で全く懲りていない様子です。水木さんはその時の自分を”若さのせい”とか、”バカだった”とかおっしゃられていますが、その物怖じしないたくましい姿が、物語にほのぼのとした明るさをかもし出してくれています。
休日には、水木さんは土人と呼ばれる原住民と交流する様子が描かれています。
ぼくは英語はあまり上手ではなかったが、単語は少し知っていたので、トモダチになった。即ち、気が合ったわけだ。
本書より引用
しかし、そこは紛れもなく戦地。上空では戦闘機が飛び、いつ爆弾が落ちてくるか分かりません。しかも、マラリアにかかって40度を超す熱が出ることもある場所でもあり、じわじわと死を認識できる場所だったようです。
ある夜、曹長に「遺書を書け」と言われて書いた水木さんは、敵前上陸を言い渡されて船に乗り込みます。
無事に上陸はしましたが、ここから戦争の恐ろしさが少しずつ顔をのぞかせてきます。
早朝に突如、ピュンピュンと音がしたと思うと、一斉射撃。猛攻撃を受けて倒れていく日本兵。
敗走する水木さん。
途中、竹槍を持った土人(別の部族)に襲われたり、マラリヤ蚊、猪より大きい野ブタなどに出くわしながらもなんとか逃げ切り、軍の小屋にたどり着いた水木さんんは、中隊長から「なんで逃げ帰ったんだ。皆が死んだんだからお前も死ね」と言われ、激しい怒りが込み上げてきたといっています。
その後、水木さんはマラリアにかかり、42度の熱が出て寝込んでいるところに爆弾が落ちて左腕を失ってしまいます。
■本書の構成
この『ラバウル戦記』は大きく三つの部分にわかれています。
●ラバウル戦記 その一
鉛筆で描いたと思われる、出発と現地の風景
●ラバウル戦記 その二
絵の具の絵が多い。前線での生活
●ラバウル戦記 その三
●トーマの日々
戦地で描かれた、土人(原住人)と村のスケッチ
絵に対して、その日の出来事や感じたことが書かれています。「本当に兵隊はこんな格好をしていたんだなぁ」「ラバウルはこんな所なのかぁ」としみじみ。近所のおじさんが、昔の楽しかった思い出を喋っているような印象を受けました。
■戦争は2度としてはいけない、というけれど……
そんなことは分かっているけど、「いざ戦争」ということになったとしたら、僕は反対できるだろうか。
もし、そんなことをすれば、非国民のレッテルを貼られるだろう。一個人の力では止められないのが戦争の最も恐ろしいところだと思う。
この本を読んでみて、当時の日本人は封建的な社会だということが分かりました。絶対的な上下関係があって、歯向かうことはおろか、意見することさえ許されておらず、逆らったら暴力で押さえ込まれます。
よく考えてみたら、日本が民主国家になったのは戦後で、それまでは国家の主権は天皇にあり、天皇の言葉は神様の言葉だった。神様に逆らうことなんてあり得ない。そこをうまく利用したのが利益を独占しようとした一部の人間で、「お前は天皇に逆らうのか」と言われたらなす術がない。
他の戦争の物語でも、「お前の体は天皇から授かったのだから、その体を天皇のために捧げるのは当然のことである!」みたいなセリフが出てくる。僕はそのセリフにいぶかしさを感じてならなかったが、”天皇が日本に幸をもたらし、国民はそれを享受できることに感謝しなさい”というような考えが根付いていたからこそ、今では考えられないような会話が生まれ、皆がそれに従っている。
思想や主義というのは本当に恐ろしい。戦死や殉死さえ正当化してしまう。人に大きな影響を与えていることがよく分かりました。
今、日本は民主国家になったからもう戦争は起きないのだろうか。日本国憲法で戦争放棄の記述があるが、いざとなったら無かったことにされてしまうかも知れない。
戦争の発端は、国の利益を増やす為の侵略だった。だったら、これからはみんながウィンウィンとなれるような社会を作っていけば……、水木さんを見ているとそんな気持ちになりました。
■ハイライト
・漫画というより絵画の作風
・戦争の悲惨さ
・当時の日本人の思考
・原住民の人間性
・水木さんの生命力と共和力
人間本来の温かみに触れることのできた気分です。
人を見る目が変わりました。
↓昭和の歴史は水木漫画で↓
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