【対話形式】【12】〈やる気を挫く〉のは自分の意見を通すためだった。

対話形式(12)

 

——これは、僕と同僚Aさんとのたわいもない会話です。

 

ミス連発で

同僚A「あー! もう嫌!」

僕「Aさん。何かあったの?」

同僚A「もうこの部署辞めたいです」

僕「あらら……どうしたんです?」

同僚A「ここ数ヶ月で私の部署の業績が落ちてるんですよ。と言うのも、私の部署のミスが多発したのが原因で、先週の会議でそのことについていろいろ話し合ったんですけど……Zさんに”あんたらのミスせいでアタシが怒られるんだ”って言われてしまって……」

僕「それは大変ですね」

同僚A「はい。確かに私の部署のミスは最近多くて以前から問題にはなってたんです」

僕「僕も以前、少し関わったので知ってますが、たくさんの従業員が関わるので連携が難しいんですよね」

同僚A「そうなんですよ。ただでさえ忙しいのに、伝達が正確じゃなかったり、やったつもりがやってなかったり。単純なミスなだけに、意識を高く持つとか緊張感を持つとか、そんなレベルでは解決にならなくて……」

僕「うんうん。それで、解決案はまとまったのですか?」

同僚A「ああ、はい。Zさんの意見で”確認を業務化”することに決まりました」

僕「……それは具体的にどんな感じなんですか?」

同僚A「ミスが起こりやすい項目をPCで管理して抜け漏れが起きていないか可視化するやり方です」

僕「なるほど……確かにミスが減りそうですね」

同僚A「はい。当面はこのやり方でいくそうです」

僕「じゃあ、まあ、問題は解決に向かってるみたいですし、とりあえずはよかったですね」

同僚A「……そうなんですよ。……よかったはよかったんですけどね……」

僕「ん?」

同僚A「何かが引っかかると言いますか……」

僕「会議のことで?」

同僚A「……そうですね……会議で私や周りの人はあまり思ったことを言えなくて……Zさんが……ちょっと強引に話を推し進めてしまった感じがして……。まあ、ミスしてる側の人間なので、強くも言えないんですけど……でも、言ってることは正しいとは思います」

僕「あ〜、なるほど。それでモヤモヤしてるんですね?」

同僚A「そうなんです。私の考え方が間違ってるんでしょうか?」

僕「分かりました。でも、これはとても簡単な問題ですよ」

同僚A「え? そうなんですか。解説してください」

なぜ、挫くのか

僕「まず、なぜZさんが”業績が落ちたのはミスをしたあなたたちのせいだ”と言ったか分かりますか?」

同僚A「……私たちが嫌いなんじゃないですかね? 私、あんまり頭が良くないので仕事もできる方じゃないし……」

僕「まあまあ。嫌いとか仕事ができないということは関係ありませんよ」

同僚A「本当ですかぁ……?」

僕「よく考えてみてほしいんですが、その会議はミスをなくすことを話し合うための会議なのでしょう? だったら、AさんやAさんの部署の人のやる気をくじく必要はないわけです。ストレートに”改善策を一緒に考えましょう!”と言った方が様々な意見が集まるはずなんですから」

同僚A「は! そうですよね! あえて公然と言う必要はないですよね」

僕「でも、ミスが起きた事実をわきまえてほしいので”ミスが起きている”事実だけは言わなければなりません」

同僚A「Zさんのは罵倒ばとうですよね?」

僕「そうAさんが感じたのならそうなのでしょう」

同僚A「よーいちさんはどう思います?」

僕「Zさん云々うんぬんというよりも、こういう風に嫌味や嘲笑ちょうしょうを含んだ言い方をしてくる人はどこにでもいます」

同僚A「え〜、嫌な世の中ですね〜」

僕「そうやって叱咤激励しったげきれいをして会社を盛り立ててきた古き慣例のようなものでしょうね」

同僚A「文句を言われたらやる気なくなるだけですよ。もうそんな時代は古いと思います」

僕「僕もそう思います。やる気を下げてしまったら、逆に作業効率が悪くなる気がします。かえってミスが増えてしまうんじゃないかと思ってしまいます」

同僚A「こんなこと言うのもアレなんですけど、Zさんのやり方でうまくいくとは思ってるんです」

僕「ええ、もちろん、僕もそう思いますよ」

同僚A「だったらなんで……」

民主的な会議 封建的な会議

僕「会社はみんなの意見を集めてより良いアイデアを生み出してほしいと思っています。なのに、Zさんの一言でみんなが押し黙ってしまい、Zさんの意見にみんなが賛同してしまった。これは民主的というより封建的です」

同僚A「独裁的ってことですか?」

僕「いいえ、独裁ではありません。多分、みんなで話し合って決まったとは思います。ただ、Aさんの部署の人たちはなぜミスが起こったのか、その原因について思ったことを発言して、Zさんが解決案を出した雰囲気が感じられたのです」

同僚A「え! あの時あの場にいてました? その通りです。私たちはなぜミスが起こったのか一人ひとり意見を言って、Zさんが”だったらこうしたらどう?”と大まかな代案を立てて話を進めて解決案を決めていったんです」

僕「これは話し合いというより1人の意見に寄せていった、一種の先導です」

同僚A「先導……そうですね。でも、Zさんの案はいい方法だと思います」

僕「ここで肝心なのは、なぜ話し合いにならなかったのか、ということです」

同僚A「……それは私たちの部署が原因をつくったので、胸を張って意見するというのも気が引けます……」

僕「確かに原因をつくったという罪悪感があるので意見はしづらいかもしれませんが、当事者たちで考えることこそが会社にとって最も嬉しいことだと思いませんか?」

同僚A「当事者たちで考えることがそんなに嬉しいものなんですか? 私にはよく分かりません」

僕「Aさん、よく考えてください。ミスを誰かに直してもらってるうちはまたミスを繰り返してしまいます。誰かに言われた約束事よりも、自ら”こうしよう!”と自発的に決めた約束事の方が責任感や緊張感が生まれるものなんですよ」

同僚A「……あ、そうかぁ。そうかも……」

僕「例えば、親に”勉強しなさい!”って言われてもやる気起きないのに対して、興味のあることは寝る間を惜しんでも勉強するでしょ?」

同僚A「あ〜、なるほど……」

僕「誰かに言われてするのでは〈他人のため〉になり、〈自分のため〉にすることは自分の壁を乗り越え、成長に繋がります」

同僚A「他人のために働くか、自分のために働くか……」

僕「意識していてもしていなくても、必ずこの二者択一になります」

同僚A「あんまり考えたことがなかったですけど、仕事にしても会議にしても成長の場なんですね」

僕「ガムシャラに仕事をこなすのも悪くはありませんが、そこに自己成長に繋げる意識を持つとよりいい仕事ができると思います」

同僚A「その方が仕事も楽しくなりそうですね」

会議のあり方

僕「会議では、意見を言う人と言わない人がいるのは百も承知ですが、少しでも多くの意見とアイデアを集めて、それをさらに上のアイデアを生み出すことが会議のあり方だと思います」

同僚A「さらに上……ですか?」

僕「ええ、意見を言い合って、賛成か反対の多数決を取る方法は、負けた側に遺恨を残します」

同僚A「私、経験あります。意見が採用されなかった時、めちゃくちゃ悔しかったです」

僕「それだとスッキリしませんよね。だから、ほぼすべての人が納得するアイデアを生み出すのです」

同僚A「どうするんですか?」

僕「……例えば、色を決める会議があったとしましょう。商品の色ということにしましょうか。……それで、1人は”赤”と言い、1人は”青”と言ったとします。Aさんならこの意見をどうまとめて、さらに上のアイデアに導きますか?」

同僚A「う〜ん。……難しいですね……。赤と青なので、間をとってむらさきにするとか?」

僕「紫にして両者が納得できますか?」

同僚A「できないと思います」

僕「そうですよね。赤にしても青にしても紫は全然違う色ですよね。会議をしているとこういう風に意見が割れることがしばしばあります」

同僚A「……まとめるのって難しいですよね」

僕「そんな時は、両者の思いを聞くと、今まで見えなかった本質が見えてきます。”なぜ、その色がいいと思ったんですか?”と。すると、赤を選んだ人は”目立つと思ったから”と言い、青を選んだ人は”かっこいいと思ったから”と言いました」

同僚A「それでそれで」

僕「要するに、両者は商品に魅力を持たせたかった共通点があることが見えてきました。それならば、この次にすることは、赤よりも目立って青よりもかっこいい色を模索することです。Aさんなら何の色にしますか?」

同僚A「目立ってかっこいい色……金色とかどうです?」

僕「金色、いいと思います。赤よりもキラキラして目立ちますし、青よりも高級感があってかっこいい。両者の思いを含めたさらに上にアイデアですね」

同僚A「なるほど……。会議のやり方がよく分かりました。こうやって、みんなの意見を取り入れて昇華させたらいいんですね?」

僕「もしも、赤と青で多数決を取った場合は遺恨を残すのでダメ。間をとってむらさきにしても両者は納得しない。だから、両者の思いの本質をたよりにして、より質の高いアイデアを一緒になって模索していく。そうすることで、1人の作業から集団の作業に変わるのです」

同僚A「なるほど、なるほど」

僕「こうやってみんなと意見を交わせたら、会議って面白いと思いませんか?」

同僚A「確かに、いろんな意見が飛び出て、どんな意見に昇華するのかワクワクしてきました」

反省は1回でいい

僕「仮に、とてもいいアイデアだとしても他者の意見を含んでいないのならそれは封建的なアイデアになってしまい、後で別の問題が生まれてしまう可能性をはらんでしまうというわけなんです」

同僚A「封建的と言ったのは、ミスを注意する人とミスを反省する人の間に立場の違いができてしまったということですか?」

僕「そうです。ZさんがAさんたちにやる気をくじくようなことを言ったのでAさんたちは萎縮いしゅくしてしまい、Zさんは自分の意見を通しやすい状況ができてしまったのです」

同僚A「……ということはZさんはダメということですか?」

僕「いいえ、Zさんを批判するということではないんですよ。Aさんが堂々とミスを認め、必要以上にたじろいだりせずに原因を究明して発案し、これからの業務を改善していくことが大事なんですよ」

同僚A「なるほど。私が堂々と意見すればもっと良い改善案になった可能性があったんですね。ハァ〜、最近、反省ばかりしてます……」

僕「反省は1回すれば、その役割を果たしていますよ」

同僚A「そうですか? 反省をたくさんした人の方がいいアイデアが出そうな気がするんですが……」

僕「いいえ、そんなことはありません。2回以上の反省は自虐か悲劇に酔いしれたいだけです」

同僚A「よーいちさん、意外と厳しいところもあるんですね」

僕「たまにずーっと反省している人もいますが、悔やんでも何も変わらないんですよ。何も。反省は過去の出来事を思い返すことですよね。だとしたら、その次は未来の出来事を考えてみませんか?」

同僚A「そうですね、未来を良くすることに力を注ぎたいです」

僕「仕事って、うまくいった時、大きな達成感を感じることができるでしょう?」

同僚A「そうですね。成功も失敗もみんなと分かち合いたいです」

僕「だから、反省が深い人ほど、過去の出来事よりも未来のことに目を向けてほしいです」

同僚A「そうですね! 勇気を出して意見してみます」

僕「会議は1人の意見に合意するために集められたわけではないですから」

同僚A「たまに的外れなことを言う人がいますが……」

僕「フフ。それは困りますね」

同僚A「ですよね?」

僕「会議などの真剣な話し合いの時は事前に考えをまとめておくと要点を抑えられます」

同僚A「ちゃんと考えてるつもりでも後で辻褄が合わなくなって恥をかいたことがあるんです。あの時は恥ずかしくて恥ずかしくて、あの場所から早く消えたかった……」

僕「今ある問題について、一歩下がって全体を広い視野で見てみると冷静に観察できるかもしれませんよ」

同僚A「私、問題に直面するとすぐ焦っちゃうんですよ」

僕「紙に〈課題〉や〈これからどうしたいのか〉などを書いてみると、現状を整理しやすくなりますよ」

同僚A「私、文章書くのが苦手なんですよ……」

僕「それなら絵や記号を使ってみてはどうでしょうか。僕の場合、●や矢印を使ったり、課題にアンダーラインを引いたり、アイデアを四角で囲ったりしてます」

同僚A「それいいですね。パクってもいいですか?」

僕「ええ、もちろんです。ちなみに今どんな問題があるのですか?」

同僚A「え? いいんですか。また相談にのってもらって」

僕「いいですよ」

同僚A「……えーっと、実はですね……」

⚠️これはフィクションです。実在の人物や物事は一切関係ありません。

 

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よーいち

高校中退→ニート→定時制高校卒業→フリーター→就職→うつ→休職→復職|うつになったのを機に読書にハマり、3000冊以上の本を読みまくる。40代が元気になる情報を発信しています。好きな漫画は『キングダム』です。^ ^

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