【対話形式】【3】〈遠くに行きたい〉の根底にあるのは承認欲求だった。

遠くに行きたい

——これは、僕と同僚Aさんとのたわいもない会話です。

 

何もかも嫌

同僚A「よーいちさん、よーいちさん」

僕「ああ、Aさん。どうしました?」

同僚A「よーいちさん、私、ダメです」

僕「ん? 何がダメなんですか?」

同僚A「ダメなんです。何もかもダメなんです……」

僕「ちょっと場所を変えて話しましょう」

同僚A「……はい」

僕「……とりあえずここに座って。お茶を買ってきたのでとりあえず一口飲みましょう」

同僚A「……はぁ、よかった……。よーいちさんがいてくれて」

僕「何かあったんですか?」

同僚A「何かあったとかじゃないんですけど……もう嫌なんです。嫌なんですよ」

僕「うんうん。何もかも嫌な気持ちになってるんですね」

同僚A「そうなんです。もうここにはいたくないんです。どこか遠くに行ってしまいたい」

僕「それはどうしてですか?」

同僚A「こんな所にいても仕方がないんです。何もしたいこともないし、私がここにいてる意味なんてないんです」

僕「そうなんですか?」

同僚A「はい、そうですよ。私なんて頭も悪いし、かわいくもないし、みんなの迷惑になってばかりだし……」

僕「そんなことはないと思いますよ」

同僚A「よーいちさんは優しいからそう言ってくれるけど、他の人はそうなんです。私がいると迷惑してるんです。私がいない方がいいと思ってるんですよ……!」

僕「……そうなんですね。Aさんの気持ちは分かりました。でも、僕はAさんにいてほしいと思いますよ」

同僚A「……そう言ってもらえると嬉しいです……けど、もうしんどいんです。疲れました……どこか遠くに行きたいです、今すぐにでも」

僕「そうですか……それはつらいですね」

同僚A「……はい……つらいです。つらいの嫌です。今日は朝からずっとそのことを考えてたんです」

僕「朝から今までずーっと考えてたんですか?」

同僚A「はい。もうここにいてたらダメだと思って……みんな、私がここにいるのを迷惑してるから早くここを出て行こうと思ってどうしたらいいか考えてたんです」

僕「そんなに長く考えてたら疲れるでしょう?」

同僚A「……疲れました。もう嫌です。早くここから離れたいです。もう仕事もやめようかと思って……」

僕「え!? それはちょっと待ってください」

同僚A「そんなこと言っても、もう嫌なんですよ!」

味方ゼロ!?

僕「Aさんが思ってるほど、みんなはAさんを迷惑だと思っていませんよ」

同僚A「そんなことないですよ。みんな私が嫌いなんです」

僕「じゃあ、聞きますけど、みんなって誰ですか?」

同僚A「え? ……それは……みんなです。ここにいる全員です」

僕「全員ですか?」

同僚A「はい、全員です」

僕「それは違いますよ。少なくとも僕はAさんのことを迷惑だとは思っていません」

同僚A「う……」

僕「Aさんは知らないだけで、Aさんがいてくれてよかったと思っている人もいるはずです」

同僚A「それは誰ですか?」

僕「例えば、AさんはUさんと仲がいいじゃないですか。UさんはAさんのことが嫌いだと思いますか?」

同僚A「Uちゃんとはよく本音を話したりしますよ。Uちゃんも話してくれるし……」

僕「他にもいませんか? そういう話しやすい人」

同僚A「……まあ、いて言うならFさんかなぁ……しっかりしてるから、たまに相談するんです。そしたらハッキリとした答えを出してくれるので話しやすいですね」

僕「その人たちはAさんのこと迷惑だと思っていないですよ、きっと」

同僚A「うん……そうだと思います」

僕「Aさんの味方になってくれる人はちゃんといてます」

同僚A「……そうですけど……多くの人は私に迷惑してるんです。だから、私はもうここにいたくないんです」

僕「あの、ずっと考えてたんですけど……迷惑ってそんなにダメなことですか?」

同僚A「ダメでしょ。誰かに負担をかけてるんだから」

ダメじゃない

僕「じゃあ、Aさんは誰からも負担をかけられてないんですか?」

同僚A「……仕事といえばそれまでですけど、いろいろフォローすることはありますよ。この前もMさんの仕事が遅れてたので手伝ったりしましたよ。でもそれはMさんが後輩だから当然というか……そういうものだから………」

僕「Aさんの負担は〈そういうものだから〉にはならないんですか?」

同僚A「ならないですよ。この仕事、そこそこやって来てますし」

僕「でも、ベテランの人でも誰かの負担になったり、『ちょっと助けてくれない?』って助けを求めてる人もいるでしょ?」

同僚A「ああ、いますね。Zさん。あの人、世渡り上手なんですよ。目上の人に擦り寄るのが上手うまいんです。で、私たちには厳しい。私はあんなこと出来ません」

僕「ええ。もちろん、Zさんの真似をする必要はありません。僕が言いたいのは〈誰もが誰かの負担になっている〉のが普通ですよってことです」

同僚A「まあ……確かにそうですけど……私は嫌なんですよ」

僕「誰の負担にもならないようにするのはAさん、とてもスゴいことですよ。普通の人は出来ません」

同僚A「え?」

僕「普通の人は仕事が大変だったら誰かに助けを求めますよ。だって、1人で処理出来ないですから。だからその時は責任とかプライドなんて二の次で、仕事を片付けることを最優先するものです。なのにAさんは1人で頑張ってる。それはスゴいことなんです」

同僚A「は〜……そうなんですか……」

僕「そうですよ。Aさんは誰よりも真面目に頑張っているからこそ悩んでるんですよ。真面目に頑張らない人は悩みません」

同僚A「よーいちさんはそんなふうに考えるんですか」

僕「そうだと思いませんか。仕事を全部自分1人で片付けたい気持ちがあっても、ほとんどの人は出来ないものなんです。もちろん、与えられた最低限の仕事はありますよ。でも、最低限でなければ、1人でしなければならない規則はない。だから、誰かからアドバイスをもらったり、作業を分担してるんですよ」

同僚A「私は1人でするのが正しいと思います」

頑張りすぎかも

僕「そうですね。でも、普通の人は1人で全部しようとは思わないんです。だからAさんは結局、他の人よりも頑張りすぎてるんです。それで今、ちょっとバテて倒れそうになってるんですよ」

同僚A「私、頑張りすぎてたんですか?」

僕「そうです! 少し休むことも大事ですよ。休めなくてもゆっくりペースを落としてみるとか」

同僚A「なるほど……。確かに、他の人は私語や冗談を言ったり、人に仕事を手伝ってもらったりしてますよね」

僕「全力疾走は悪いことではありませんが、走り続けていればいつか倒れます。長距離を走るのならペース配分を考えたり、休んだり、時には誰かに代わりに走ってもらうのも手段の1つですよ」

同僚A「……そうですね。Zさんにしても仕事を投げ出してはないですしね。やり方は同意出来ませんけど」

僕「まあ、Zさんの話はさておき……AさんにはAさんのペースややり方があることを知る——〈自分の力量〉を認識することが大事なんだと思います。自分は〈これまでは出来るけど、これ以上は出来ない〉という範囲を知っておくと仕事でメリハリが出ると思います」

同僚A「そっかぁ。確かに私、仕事出来るか出来ないかとか考えずに無我夢中でやってました」

僕「まあ、でもそれは、それだけ大変な仕事だから無我夢中にならざるを得ないと思います。1番ダメなことは仕事が片付かないことだと思うんです」

同僚A「仕事を終わらさないのは1番ダメです」

僕「仕事には期限があるので、期限内に片付かないかもしれないと思ったなら、プライドなんて二の次でいいでしょ?」

同僚A「……うーん。そうですね。仕事を最後までやり切ることが何よりも優先ですね」

僕「だから、迷惑をかけることは悪いことじゃないんです。仕事を一緒に協力してるだけなんです」

同僚A「協力はあまり好きじゃないんですけど……」

僕「協力はサボりではないですよ?」

同僚A「その境界線が曖昧だと思いますけどね……」

僕「確かにそうですね。”協力、協力”と言ってサボる人もいます。でも、Aさんはサボらないでしょ?」

同僚A「絶対にそんなことしません!」

僕「少し、周りを信用して託してみるのもいいですよ」

同僚A「でも私がミスして、返って仕事増やしたりするかもしれません……」

僕「それは気をつけましょう」

同僚A「気をつけます」w

長く考えるのはスゴいこと

僕「それにしても、朝からずっとこのことを考えてたなんてAさんは本当にスゴいですよ。普通の人はここまで考えたりしません」

同僚A「そうですか?」

僕「はい。嫌なことを長時間考えてたらどんどんつらくなるので、普通は別のことに目を向けたりするものですよ。これはある意味、〈逃げ〉のように聞こえるかもしれませんが、考えるということはスゴくエネルギーを使います。だから、Aさんはスゴいことをしてるんですよ!」

同僚A「……そんなふうに言ってもらえたら嬉しいです……」

僕「自信を持ってください。Aさんはスゴいです」

同僚A「でも、本当に私、つらかったんです。つらくてつらくて死にたいくらいだったんです」

僕「そうですよ。つらく苦しいことは普通、長く考えないものです。でもAさんは続けた。その長い時間、真剣に自分と向き合ったということですよ。こんなこと、なかなか出来ることではありません」

同僚A「本当ですか?」

僕「もちろんです。半日も考え続けてつらかったでしょう?」

同僚A「はい、つらかったです」

僕「そのつらさがどんなにつらいかを自分の身を持って体験したんですよ。だから、よく分かったと思います。つらいという気持ちがどれほどのものか」

同僚A「そうなんです。つらい気持ちだったんです」

僕「だったら、今日は朝からずっと考えることを頑張ったので、ここら辺で休憩を取りましょう。今……ちょうど夕ご飯の時間ですね」

同僚A「あ、本当ですね。話してたらこんなに時間が経ってたんですね。恥ずかしい……」

僕「今日は頑張ったので、自分にご褒美をあげてもいいと思います」

同僚A「そうですね。UちゃんとFさんを誘ってご飯を食べに行こうと思います」w

僕「それがいいです」

同僚A「よーいちさんとも今度ご飯行きましょうね?」

僕「はい」

同僚A「本当ですよ?」

僕「はい」

同僚A「では、帰りまーす。ありがとうございましたー」

僕「みんなとご飯、楽しんでくださいね」

同僚A「はーい。ありがとうございまーす」

僕「はーい。お気をつけて」

 

⚠️これはフィクションです。実在の人物や物事は一切関係ありません。

 

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よーいち

高校中退→ニート→定時制高校卒業→フリーター→就職→うつ→休職→復職|うつになったのを機に読書にハマり、3000冊以上の本を読みまくる。40代が元気になる情報を発信しています。好きな漫画は『キングダム』です。^ ^

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