1ヶ月後、僕はプログラミング教本のレッスンを最後までやり切り、HTMLとCSSを理解することができた。
仕事終わりに1人部屋にこもってパソコンと睨めっこしながら悪戦苦闘した甲斐があった。
「次は何をしようか」
調べてみると、JavaScriptという言語を勉強するらしいことが分かった。
早速本屋で適当な教本を買って勉強を始めた。
……ところがどうしたことか、まったく分からない。
10〜20%は分かるような気がする、といった感じで手応えが無い。
1つのレッスンの始まりから終わりまで、何をしているのか理屈がまるで分からない。
ひとまず、教本に書いてある通りに進めてみることにした。
1ページ、2ページと進めて10ページ。そして20ページまで来てみたものの、やっぱり分からない。
HTMLやCSSはわからないがながらも入力した文字とそれに反映されるWebページのとの間に起こっている現象をある程度想像することができた。
『入力した文字とWebページの間』⎯⎯『Webの間』とでも言おうか、そこで何が起こっているかをどう理解するかがプログラミングを理解できるかどうかだと思う。
「すごいな。プログラマーの人はこんな世界にいるのか」
JavaScriptは僕にとって『Webの間』がとても深く感じられる、まさに異次元だった。
中には50%ほど理解できたところもあったが、手応えを感じられず『Webの間』にとらわれる日々が続いた。
1ヶ月経った頃、教本の三分の一ほどしか進めていなかった。HTMLとCSSはサクサクっと1ヶ月で終わったのに。
プログラミングの勉強2ヶ月目で早速つまずく。
僕はプログラミングから離れてこれからのことを考えてみることにした。
・このままJavaScriptにチャレンジするか
・別の言語を勉強するか
・プログラミングをやめるか
2、3日悩んだ末、僕はプログラミングをきっぱり諦めることにして、別の道を進むことに決めた。いつかは出来るかもしれないが、悪戦苦闘するたびにだんだん楽しくなくなってきた。アルファベットの羅列を何時間も眺めているのが性に合っていない気がした。
僕がパソコンでやりたかったことはプログラミングでWebサイトやゲームが作ることじゃない。誰かに喜んでもらえるWebサイトを作ることだ。せっかく頑張って勉強してきたが、自分の気持ちが分かってよかったと思う。
Webサイトが作られる原理はHTMLとCSSで分かった。
では「どうすれば自分のWebサイトを持てるのか?」
僕は片っ端から調べた。そして、そのやり方を説明しているサイトを発見した。
『ブログを開設するまでのロードマップ』と題されたそのブログを作成したのは、月収400〜500万以上稼いでいるらしいインフルエンサーだった。
半信半疑だったが、そこに書かれている内容を何度も読み返すと、今何をすればいいのかがとてもわかりやすく解説されて信用に足ることが分かった。
まずはドメインを取得する。そしてサーバーと契約する。(収益を目的とするならWordPress一択とのこと)この2つで自分のWebサイトが持てる。意外に単純だ。
だが、手続きに時間がかかるだろうと思った。面倒な作業になりそうだなと。
僕はこの手の手続きが大嫌いで苦手だった。住所・年齢・電話番号・ID・パスワード・銀行口座・クレジットカードなどを記入するような作業はこれまでなるべくしないように生きてきた。やりたくないなと思いながらも、今更諦めるわけにもいかない。
次の2連休にその手続きをすると決め、もう一度Webサイト開設までの手順を読み返したり、ドメインは何にするか3つほど考えた。
(ドメインとは、Webサイトのアドレスのうち、https://の後に来る文字——「〇〇.com」「〇〇.jp」の部分のこと。ドメインは自分だけの固有のもので、あとで変更はできない。ドメインを取得する時に決めるので、事前に候補を考えておくとスムーズ)
ドメインの決め方もインタネットで調べた。もうなんでも調べるのが癖になっている。
すると、「シンプルなドメインがベスト」との答えに至った。なぜかというと、シンプルなドメインはユーザーから覚えてもらえる可能性が高いことと、意味深なドメインはユーザーから怪しまれて警戒されてしまうからだった。確かに意味が分かりづらい変なドメインを開こうとは思わない。
そのインフルエンサーさんのおすすめドメインは「自分の名前」だった。「自分の名前,com」「自分の名前.org」など。
その理由は、ブログで書くことが決まっていない初心者は途中で内容が変わってもドメインを気にしなくていいからだそうだ。なるほど。確かにそうだ。たとえば、ドメインがbookなどの読書関連にしておいて、あとで旅行関連のブログに変わったたらドメインに違和感が生まれてしまう。
自分の名前をドメインにするのは少し恥ずかしい気もしたが、あとのことを考えると最初はそれでいいかもなと思った。
——2連休、初日深夜。
ブログ開設が長時間に及ぶであろうことを見越して、机の周りにあらゆる準備をしていた。
まずはパソコン。フル充電した。
右側にはメモ帳とペン。分からない言葉や気になった言葉をメモするためだ。パスワードをメモしておくことにも使える。
そしてスマホ。Web開設の手順を見ながら進めていく。行き詰まった時にパソコンの画面を写真にとっておくこともできる。
左側にはブログに関する本。
飲み物。コーヒーとお茶とジュースとお酒。お酒はこの作業が終わってからの祝杯だ。
早速ドメインを取得する。
インターネットで、指定のドメイン取得サイトを開き、ドメインを購入する手続きをしていく。
ドメインは唯一無二なので、他者が使っているドメインを使うことはできない。なので、自分が使いたいドメインが他者に使われていないかを確認する必要があった。
意外にも僕の名前をドメインで使っている人はいないようだった。ひと安心だ。
お次は「.com」の部分。
種類がたくさんあることに気がついた。「.net」や「.info」「.biz」なら見たことはあるが「.xyz」や「.monster」なんてものある。
値段もピンキリ。数万するものもあれば無料のものもある。
僕はよく見かける「.com」を選ぶことにした。
手続きか完了すると、ドメイン取得されたことが表示されたが「本当かなぁ」と疑いたくなるくらい手応えはない。「たぶん取得したんだろうなぁ」という感じ。
ひとまず第一タスク達成だ。
次はサーバーとの契約だ。
これがなかなか厄介だった。
まずは申し込み。IDとパスワードを入力。そしてそれらをメモ。
プランを決める。Webサイトの容量(規模)によって値段が違う。とりあえずスタンダードにしておく。契約期間を選択。
ユーザー名(自分の名前)、Word Pressへのログインパスワード、メルアド、アカウント情報、認証コード、最後に支払いをして完了する。
今にして思えば、それほど難しくはないが、この時はてんやわんやでパニック寸前。「何?」「どういうこと?」の連続で、何度も中断しながら調べては中断、また調べては中断しながらちょっとずつ進めていた。
パソコンの画面に「Hello World!」の文字が表示される。
「……できた!」ホッとしてため息が出た。
結局、全部が終わるまで3時間ほど掛かった。(理解できていれば10分〜20分の作業だと思います)
⎯⎯と、ここまでは良かったが、何を書くのかまるで考えていなかった。
もとより、文章を書くのが得意ではなかった。むしろ、苦手なくらいだ。
しかし、ここでやめるわけにはいかない。WordPressで一年契約してしまったのだから。
僕はブログの書き方を勉強するとともに教養を深める努力を積み重ねることにした。
尊敬するインフルエンサーさんのブログ記事を研究したり、ブログの書き方をサイトや動画から学んだ。
正直、最初はちんぷんかんぷんだった。
構成だの、一貫性だの、言葉選びだの、やることが多すぎるくらいあった。
このままだと埒が開かないので「とりあえず書いてみよう!」と、勢いだけで思っていることを書いてみることにした。だが、実際にやってみると思ったより書けない。500文字ほどで書くことがなくなってしまった。しかも、読み返してみると何が言いたいのかよく分からない。愚痴ってるような内容になってしまっている。
これではダメだな、ということで、読者に喜んでもらえるような(僕の場合だと、うつ病で苦しんでいる人に喜んでもらえるような)記事を目標にすることを決意。そして難しいことは考えず、自分が主張したいことを素直に記事にしてみた。
内容をわかりやすくするために画像も作って貼り付けてみたりした。画像を作るのは楽しかった。と言っても無料サイトからダウンロードしただけだが、それに文字を添えたり、画像編集する作業は全く苦にならなかった。
ブログ開設から2ヶ月経⎯⎯なんとか記事をひとつ書き上げることができた。
「最初だからこんなもんか」と思いながら、また1週間くらい掛けて2つめ、3つめと記事を書き上げ、さらに2ヶ月経つ頃には全部で10記事ほど書き上げた。
内容は、うつ病の体験やそれから得た知識や感想だ。
「そろそろ公開しようか」と思ったが、ふと我に返る。
「こんな記事を読んで誰が喜ぶんだ?」と言う自分がいる。
読者が喜ぶ記事を書いてはみたものの、何が言いたのかはっきりせず、信憑性に欠けていることばかり。起承転結もまとまりもなく、まるで子供が書いたような文章のようだ。
何より、読んでいて楽しくない。
ブログ記事の正解が見えてこない。
僕は一度書くことを中断して、読書に専念することにした。
と言いつつも、読書は大の苦手だった。だから過去の書物や文献を漫画にした【まんがで読破】という本が僕の愛読書だった。
「この本の紹介ブログを書いてみよう」
僕は何の取り柄もなく、何も書くことがない。
だが、僕は1つだけ特技があった。それは要点をまとめて説明することだ。
たとえば、100〜1000文字ほどの文章を箇条書きにしてまとめたり、図解やイラストにして教えるのが得意だった。この要点をまとめる作業を不得意としている人が周りにとても多かったので、僕はこれを自分の特技だとあるとき気がついた。
それほど自慢できる特技ではないが、希少価値があるか無いかよりも、自分ができることを自分だけの分野でできたらいいなと思った。
僕は早速【まんがで読破】のレビュー記事を書いてみることにした。
この作業は実に骨が折れた。まず本を読み、あらすじを理解する。そして作者が何を言いたかったのかを読み取り、それらを文章化する。本の内容を少なくとも90%以上理解していないと書けない作業だ。何度も本を読み返しては何度も記事を書き直した。
アフィリエイトという、ブログで商品を売り収益を得る方法も知った。大手アフィリエイトの会社に登録して、アフィリエイトリンクを設置した。これによってブログ内に販売の画像が増えて、よりブログらしくなってきた。「売れてくれたらいいなぁ」と思った。
1年が過ぎ、1年半が過ぎた頃、記事の数は200近くになり、ブログは充実し始めた。
しかし、それでも僕のブログの閲覧者は月に300ほど。収益は0円がほとんど、あっても百円にも満たなかった。
またまた頭を抱えることになった。
「どうしたらいいんだろう、、、」
そういえば、あるインフルエンサーさんは「ブログに大事なことは有益性」と言っていた。確かにそうだ。ただ言いたいことだけを連ねるだけのブログに有益性は無い。
誰もが読みたいと思う記事は、読んで得するものでないといけない。たくさんの人に喜んでもらえるような記事を作らなければブログを書いている意味がない。
「仕事や生活の悩みを解決する記事を書いてみよう」と、僕は自分の考えをまとめた記事を書き始めた。
それは吉と成すのか凶と成すのか……まだまだ長い道のりが続きそうな気配が漂っていた。